以前は役員賞与は損金算入が認められていませんでしたが、事前確定届出給与の制度を利用すれば、役員賞与でも一定の要件を満たせば損金算入が認められます。
事業年度開始後の株主総会や社員総会において支給時期と支給額を決議し、原則として決議をした日から1月を経過する日までに税務署へ届出書を提出し、届け出た支給時期に実際に届け出た金額を支給すれば損金(費用)として認められます。
ただし、「事前確定届出給与に関する届出書」を税務署に提出したもののそのとおりに支給しない場合があります。その場合はどのような取扱いになるのでしょう。下記の2つのケースを見ていきましょう。
全額又は一部金額を届出通りに支給しなかった場合
基礎編
当初の予定よりも経営状況が悪化したことなどにより役員賞与を全額支給しない場合があります。
役員賞与を全く支給しないので税金に関係ないと思われがちですが、株主総会等で支給することが決議されたので、支給日以後には役員に報酬請求権が発生し、会社には報酬を支給する債務が生じます。
支給日以後に株主総会等で不支給の決議や役員からの辞退届があった場合にはすでに役員に報酬請求権が発生してしまっているので原則として源泉徴収が必要となるので注意が必要です。
また、支給日以後に不支給とした場合にも会社側では原則として債務免除益が益金(利益)として計上され思わぬ税金を支払う恐れがあるので注意が必要です。
所得税基本通達28-10(給与等の受領を辞退した場合)
給与等の支払を受けるべき者がその給与等の全部又は一部の受領を辞退した場合には、その支給期の到来前に辞退の意思を明示して辞退したものに限り、課税しないものとする。
国税庁HP『法令解釈通達』より引用
「事前確定届出給与に関する届出書」を税務署に提出した場合に、経営悪化などにより、役員賞与を全額不支給とする場合でも、支給日前に株主総会等で全額不支給の決議を行い、役員に辞退届出を提出してもらう必要がありますのでご注意ください。
同一事業年度に複数回支給の場合
《事例》3月決算法人が、2021年5月26日から2022年5月25日までを職務執行期間とする役員に対し、2021年12月及び2022年3月にそれぞれ300万円の給与を支給することを定めて所轄税務署長に届け出た場合において、2021年12月には満額の300万円を支給したが、2022年3月には200万円しか支給しなかった。
この場合は、届出通りに支給した1回目(2021年12月)の300万円も含めた500万円全額が事前確定届出給与には該当せず、損金不算入となります
「定めどおりに支給されたかどうかの判定(事前確定届出給与)」
一般的に、役員給与は定時株主総会から次の定時株主総会までの間の職務執行の対価であると解されますので、その支給が複数回にわたる場合であっても、定めどおりに支給されたかどうかは当該職務執行の期間を一つの単位として判定すべきであると考えられます。
国税庁HP『質疑応答事例』より引用
したがって、複数回の支給がある場合には、原則として、その職務執行期間に係る当該事業年度及び翌事業年度における支給について、その全ての支給が定めどおりに行われたかどうかにより、事前確定届出給与に該当するかどうかを判定することとなります。
特定の役員だけ届出通りに支給しなかった場合
届出通りに支給しなかった役員Bに対する給与が損金算入されないことは明らかですが、この場合、会社全体として事前確定届出給与を届出通りに支給していないことになりますので、届出通りに支給した役員Aに対する給与も損金不算入となるのでしょうか。
答えは、届出通りに支給した役員Aに対する事前確定届出給与は損金算入されます。
法人税法第34条第1項第2号に、「その役員の職務につき所定の時期に確定した額の金銭又は確定した数の株式(出資を含みます)、新株予約権、確定した額の金銭債権に係る特定譲渡制限付株式又は特定新株予約権を交付する旨の定めに基づいて支給する給与」
国税庁HP『質疑応答事例』より引用
したがって、役員Bに対して届出書と異なる支給したとしても、役員Aに対して支給した事前確定届出給与が損金不算入になることはありません。
その他にもより詳細な情報が知りたいといったご要望等ございましたらぜひとも弊所にお問い合わせいただければと思います。
上記は実務でよく登場し、実際のところはどうなるのかというケースを挙げてみました。皆様のご参考になれば幸いです。